デイ・トゥ・デート 逢河雷魚/皆方アイリ



メインログ/雑談ログ

これまでのお話
『Closed secret』
『一夜二人転 逢河雷魚/皆方アイリ』
『星を目指したオルペウスは、』
『一夜二人転デスマッチ 逢河雷魚/皆方アイリ』
『突発卓 逢河雷魚/皆方アイリ』




【Scene1】

GM:大型連休も終わりを迎え、五月病を患った人々がぼんやりと行き交う穏やかな春の日。
GM:君達──皆方アイリと逢河雷魚はこの日、休日を利用して二人で出掛ける約束をしていた。
GM:普段ならばお互い約束の時刻よりも前に集まるような二人だが、この日の待ち合わせ場所に逢河雷魚の姿は無かった。
GM:約束の時刻、その3分前になっても、一向に逢河が現れる気配は無い。
皆方アイリ:「んー……」
皆方アイリ:人の行きかう時計台の前で、スマホと周囲に交互に視線をやっている。
皆方アイリ:普段より少し手間をかけた髪型と、最近買ったばかりのトップス。
皆方アイリ:あんまり気合い入れすぎてるように見えるのもなぁだのなんだの言いながら考えた、今日のための装いである。
皆方アイリ:(先輩、なんかあったかな)
皆方アイリ:普段なら約束の15分前にはもう着いていて、こっちが待たせてしまうことの方が多いくらいの人だ。
皆方アイリ:この時間まで来てないとなると何かトラブってそうだなーとは思うものの。
皆方アイリ:(でもまだ時間ではないしなぁ。連絡入れると急かしてるっぽくなりそうだし……)
皆方アイリ:(ひとまず様子見でいっか。過ぎても連絡来ないならちょっと聞いてみよ)
皆方アイリ:そう気を取り直して、もう一度画面から顔を上げる。
皆方アイリ:何分背が高いし目立つ人だから、見てれば大体見つけられる自信はある。
皆方アイリ:見慣れた仏頂面を探してぼんやりと人波を眺めた。
逢河雷魚:そのまま時間は過ぎていき、やがて約束の時間が来ても、逢河が現れることはない。
逢河雷魚:スマホに連絡が来る様子も無い。
皆方アイリ:時間を5分すぎたくらいで一度こちらから連絡を入れる。
皆方アイリ:『先輩ー?なんかトラブルでもありました?』
皆方アイリ:圧とかをかけてしまわないようなるべく軽めの短文を一つ。
逢河雷魚:やがて、もう一度連絡を入れようかという頃になって。
逢河雷魚:道の先に、見慣れた長身の人影が見えてくる。
逢河雷魚:明らかに焦り、急いだ様子で、行き交う人波に逆らうように近付いてくる。
皆方アイリ:こっそりと一つ安堵の吐息を漏らしてから、そちらへ向かって大きめに手を振る。
皆方アイリ:「せんぱ~い。こっちですこっち」
逢河雷魚:「はっ…………はぁっ……!」
逢河雷魚:体力というより恐らくは心因性の汗を浮かべ、立ち止まって乱れた息を整える。
逢河雷魚:任務の際よりラフな、ジャケットを羽織ったシンプルな装い。常に振り撒いている威圧感は幾分か薄れている。
皆方アイリ:「……ふふっ。いや、どれだけ急いでたんですか」
逢河雷魚:「……わ、悪い……」
逢河雷魚:「遅くなった……」
皆方アイリ:「だいじょぶですよ~。たいして待ったわけでもないですし」
皆方アイリ:「というか先輩が遅刻なんて珍しいですね?電車でも遅延しました?」
逢河雷魚:「……いや……」
逢河雷魚:「……あー……」
逢河雷魚:私物のバッグの他に、手元には何かボコボコと膨らんだ紙袋を抱えている。
皆方アイリ:「ふむ」
皆方アイリ:目敏くそれを見つけて。
皆方アイリ:「こちらの紙袋が何かご関係していたり?」 ひょいと中身を覗き込もうとする。
逢河雷魚:袋の中には、真っ赤な林檎が幾つも詰まっている。
逢河雷魚:「……」
逢河雷魚:「その……だな……」目を逸らす。
逢河雷魚:「……笑うなよ……?」
皆方アイリ:「笑わないかどうかは内容次第ですねぇ」
逢河雷魚:いかにも言い辛そうに顔を顰めて。
逢河雷魚:「……」
逢河雷魚:「来る途中の道で……」
逢河雷魚:「おばあちゃ……さんが迷ってて……」
逢河雷魚:「…………」目を逸らす。
皆方アイリ:「……助けたらお礼にリンゴを貰って」
皆方アイリ:「そのせいで遅くなったってことです?」
逢河雷魚:「……」
逢河雷魚:「悪い……」俯く。
皆方アイリ:「ぷふっ」
皆方アイリ:「いや、そんな……マンガみたいな……」
皆方アイリ:ふるふると笑い交じりで震えた声。ついでに方も思い切り震えている。
逢河雷魚:「笑うなっつったろうが……!」
逢河雷魚:「俺が一番思ってんだよ……!そんなの……!」
皆方アイリ:「いや内容次第ですって言ったじゃないですか……これは無理ですよ……」
皆方アイリ:「……はー。笑った笑った」
皆方アイリ:からからと一頻りウケた後。
皆方アイリ:「ま、遅れたと言っても映画の時間には問題ないくらいですし」
皆方アイリ:「そろそろ行きましょっか」
逢河雷魚:「ああ、だな……」釈然としない顔だが、遅刻したのは自分なので何も言えない。
逢河雷魚:映画館に向けて、雑踏の中を歩き出す。
逢河雷魚:一瞬、すぐ横にある小さな手に視線を落とすが──
逢河雷魚:結局そのまま、ただ並んで歩いていく。
皆方アイリ:こちらから繋ぐ、ということもない。
皆方アイリ:繋ぎたくない訳ではないけど、なんとなくその一歩を詰めるのに気後れするようになったというか。
皆方アイリ:まあ繋がなくたって見失われることもないし。そうされないくらいにはしっかり見ててくれるだろうし。
皆方アイリ:無理に絶対手を引いて連れまわす必要はないだろうなんて。
皆方アイリ:そんな信頼を言い訳に、ただ並んで隣を歩くようになった。
逢河雷魚:軽口を交わし、すぐ近くで並んで。だが指の一本も触れ合わず。そんな微妙な距離を保ったまま、人混みの中を歩いて行った。



【Scene2】

GM:ついたのは駅最寄りのショッピングモールに併設された映画館。
GM:二人のみならず、家族連れ・カップル・友人グループなどなど多くの人々でごった返している。
GM:壁には多くのポスターが張られていて、現在のラインナップがよく分かる。アクション・ミステリー・ロマンス・アニメ系・サスペンスetc……。
皆方アイリ:「ええと、先輩がもらったチケットのやつ見ようって話でしたけど」
皆方アイリ:「なんてタイトルのやつです?」
逢河雷魚:「あー……」チケットを取り出し、ポスターと見比べる。
逢河雷魚:「『怨霊館オブザデッド ファイナル』だな……」
皆方アイリ:「……」 暗い背景におどろおどろしい血文字が躍るポスターを見て。
皆方アイリ:「だいじょぶですか、先輩。前ホラー見たときまあまあアレでしたけど」
皆方アイリ:自分もまあまあアレだったけど、そこは一度棚に上げて。
逢河雷魚:「ああ……?誰がアレだって?お前こそ大丈夫かよ」
逢河雷魚:「無理そうなら他のにしとくか?」
逢河雷魚:隣にある恋愛映画のポスターを示す。記憶が3時間しか持たずやがて死に至る病を抱えた歳の差カップルを描いた、いま流行りの映画だ。
皆方アイリ:「え、先輩コレ見るんです?」
皆方アイリ:ポスターと先輩の顔を見比べて。
皆方アイリ:「にあ」
皆方アイリ:「いえ、何でもないです」
逢河雷魚:「言われなくても分かってんだよンなこと……!例えだっての……!」
皆方アイリ:「えぇ~。あたしまだ何も言いきってなかったのに~」
皆方アイリ:「まあほら、折角もらったチケットももったいないですし。フツーにそれ見ましょ」
皆方アイリ:「それともこっちにします?」 わざとらしくからかう笑みを浮かべて例の恋愛映画のポスターを指す。
逢河雷魚:「もしこれで俺が見るって言ったら皆方も見ることになるんだからな……」
逢河雷魚:「それでいいなら観るか?俺はどっちでもいいけどな」
皆方アイリ:「……」 一瞬黙り込んで。
皆方アイリ:「今日はもうホラーの気分になっちゃったので。素直にホラーにしましょう」
皆方アイリ:「ほらほら、行きますよー」 ぐいぐいと後ろから受付の方へと先輩を押していく。
逢河雷魚:「何か、お前がどういう時に嫌がるのか段々分かってきた気がするわ……」押されていく。
皆方アイリ:「分かんなくていいんですよそんな事」
皆方アイリ:「あ、ちなみに先輩は映画の間物食べる人です?」
逢河雷魚:「俺は食うな……腹減るしな」映画館の採算を考えてというのもあるのだが、わざわざ口にはしない。
逢河雷魚:「皆方は?」
皆方アイリ:「映画館って普段来ないので、たまに来たならポップコーンくらいは食べたい派です」
皆方アイリ:「お互い地雷にならずに済んで何よりですね」
逢河雷魚:「じゃあ後で買うか……」受付に立って「すいません、このチケットで……学生2枚お願いします」
受付のお姉さん:「はい、学生2枚……あら」
受付のお姉さん:二人連れである君達の様子を見て少し笑みを零して。
受付のお姉さん:「本日カップルデーとなっておりまして、カップルのお客様には無料でポップコーン引換券をお渡ししておりますが」
逢河雷魚:「カ……」
逢河雷魚:視線を隣に向ける。
皆方アイリ:素知らぬ顔で視線をそらし、先輩に任せる構えを取っている。
逢河雷魚:「…………ええと……」
逢河雷魚:「……はい。それで……」
逢河雷魚:微妙に視線を戻せないまま頷く。
受付のお姉さん:「はい。ではこちら引換券とレシートになります」 どこか微笑まし気な眼差しを送りつつ券を渡して。
受付のお姉さん:「引き換えはあちらの売店でお願いします」
受付のお姉さん:手で売店を指し示し、にっこりと笑顔で二人を見送る。
逢河雷魚:「……はい。どうも……」券を受け取り、やや逃げるように窓口を離れる。
皆方アイリ:そそくさとそれに続く。
皆方アイリ:そしてしれっと「ポップコーン、何味にします?」などと売店のメニューを眺め出す。
逢河雷魚:「……」少しの間、ややもの言いたげな視線を送り、溜息を吐く。
逢河雷魚:「……別に何でも。何がいい?」
皆方アイリ:「んー。キャラメルも捨てがたいですけど、やっぱ王道の塩ですかねぇ」
皆方アイリ:「キャラメルにすると飲み物も甘かったときかぶりますし」
逢河雷魚:「だな……飲み物は?買ってくる」
皆方アイリ:「じゃあアイスティーお願いします。シロップ付きで」
GM:その後、無事ポップコーンと飲み物を購入し席まで移動も済んで。
GM:がやがやと席に着く人の流れも落ち着いたところで場内の明かりが消えていく。
GM:いくつかの広告を挟んだ後。『怨霊館オブザデッド ファイナル』が始まった。
:「ワン!ワン!ワンワンワンワン!!」
ジェニファー:「嘘……嘘、嘘嘘嘘……!」
ジェニファー:灯りの消えた室内、スマートフォンのバックライトが女優の顔を照らし出す。
ジェニファー:「ふざけないで……どうして通じないのよ……!」
ジェニファー:何度も必死にケビン(彼氏)に電話を掛けようとするが、街中だというのに電波は圏外。
:「グルルルル……ワン!!ワン!!ワンワン!!」
:闇の中、けたたましく響いていたジョン(愛犬)の鳴き声が……
:「…………」
:不意に消える。
ジェニファー:「……ジョン?」
逢河雷魚:「…………」固唾を呑んでスクリーンを見ている。
ジェニファー:「ジョン?どうしたの、ジョン……」
ジェニファー:「ジョン……ジョッ……」
ジェニファー:家を出たジェニファーの視界に飛び込んできたのは、無惨に殺されたジョン(愛犬)の姿だった。
ジェニファー:「嫌ぁああああ!!ジョン!!ジョン!!」
ジェニファー:「ああ……何てこと!神様!神様……!!ああ……!」
皆方アイリ:「……」 犬に被害が及ぶパターンをあまり知らないので、ちょっと嫌そうな顔になる。
ジェニファー:ジョン(愛犬)の亡骸に縋りついて嗚咽を漏らすジェニファー。
:カメラが望遠からジェニファーの後姿を写し出し、徐々に近づいていく。その映像は歩み寄る何者かの視点であるかのように揺れている。
逢河雷魚:(おいおいおい……!)
逢河雷魚:(後ろだ!ジェニファー!後ろだっての……!)
ジェニファー:「アアーッ……何てこと……ジョン……神様……アア……」
皆方アイリ:(あー、こう映すことで何がこれをやったのか明らかにしない感じの……)
皆方アイリ:(よくある手法、よくある手法)
皆方アイリ:若干自分に言い聞かせるように。
:泣き叫ぶジェニファー。そこに黒い影が差す。シルエットが斧を振り上げ──
ジェニファー:「!!」
ジェニファー:咄嗟に振り返るジェニファー。その視線の先には……
逢河雷魚:「……!!」
皆方アイリ:「ひっ」 息をのむ音が僅かに漏れる。
ジェニファー:……何も無い。ただ閑静な住宅街の夜闇が広がっている。
ジェニファー:「……?」
逢河雷魚:(……何だよ、思わせぶりなことしやがって……)
逢河雷魚:安堵の息を吐く。
皆方アイリ:(……でもこれ、大体こうやって安心させた後に……)
ジェニファー:「ああ……ジョン……」愛犬の亡骸(ぬいぐるみっぽい)を撫でる。
ジェニファー:「一体誰がこんなことを……早くケビンを呼ばなきゃ……」
ジェニファー:肩を竦めて息を吐き、スマートフォンを手に取った、瞬間。
モンゴリアンデスワーム:「ギャギャーーーッ!!」
モンゴリアンデスワーム:巨大なデスワームが死角から襲い掛かる!!
ジェニファー:「アァーーーッ!!??」
逢河雷魚:「!!?」
逢河雷魚:一瞬椅子が揺れる。
皆方アイリ:「……!」
皆方アイリ:身構えて多分声は漏れないものの、見るからに肩が跳ねる。
モンゴリアンデスワーム:「ギェーーーッ!!」
モンゴリアンデスワーム:怨霊が生み出した恐るべきデスワームが、ジェニファーを丸のみにしていく……!
ジェニファー:「アーーーッ!!嫌ーーーッ!!」
ジェニファー:「神様!!ケビン!!嫌ァァーーーッ!!」
ジェニファー:噴き出る大量の血飛沫。ジェニファーの断末魔が、いつまでも映画館に木霊していた……

---

GM:映画館から出た頃には、丁度正午を回ったところだった。二人は近場のファストフード店で昼食を取ることにした。
GM:ランチタイムの店内は賑わいを見せていたが、運よく空いた席を確保することが出来た。
GM:二人はそれぞれの注文を手に席に着く。
逢河雷魚:「…………。……まあまあだったな」
皆方アイリ:「まあ……そうですね」
皆方アイリ:期間限定のパイを真っ先に開ける。
逢河雷魚:サイドメニューも無しに大量のハンバーガーを積み上げ、シェイクを何本も並べている。
逢河雷魚:「やっぱ……」
逢河雷魚:「最初に悪戯で封印を解いたケニーが悪いと思うんだよな……」
皆方アイリ:「まあお約束ですよねぇ。実際真っ先に食べられてましたし」
皆方アイリ:「でもケビンもダメじゃないです?いやまあ罪状浮気なんで本筋とは関係ないですけど」
皆方アイリ:「というかなんで浮気描写差し込んできたんですかね、あそこ」
逢河雷魚:「あいつもマジでダメだったな……その後死ぬ時にスッキリさせる為じゃねーのか?」
逢河雷魚:大きく口を開いて、ほとんど一口でハンバーガーを食べる。見ているとサイズ感がおかしくなりそうになる。
皆方アイリ:「ああ、そういう……。でもスッキリどうこう言うんなら、ジョンが被害受けてる時点でアウトじゃないですか」
逢河雷魚:「だよな……。犬はな……」
皆方アイリ:「まあぬいぐるみなの丸わかりだからアレでしたけど、犬が犠牲になるの人によってはドがつく地雷ですよ」
皆方アイリ:ちびちびとパイを齧っていく。パイ皮が零れないよういつも以上に一口が小さい。
逢河雷魚:「俺も飼ってるし、割と苦手だな……ああいうの」
逢河雷魚:「最初に注意書きしてくれりゃいいんだけどな。PG-12みたいなマークで……」
皆方アイリ:「え、先輩犬飼ってるんですか」
逢河雷魚:「……ん、言ってなかったっけか」
皆方アイリ:「初耳です初耳。え、写真とかあります?」
逢河雷魚:「あー……待ってろ」
逢河雷魚:スマートフォンを取り出し、少しスワイプして。
逢河雷魚:「これとか」
逢河雷魚:画面を見せる。大型の雑種犬が猫と寄り添うように寝転んでいる写真だ。
逢河雷魚:実家の妹に送るよう強請られて撮った写真でもある。
皆方アイリ:「かわいい~!」
皆方アイリ:「猫の子も居ますね。多頭飼いなんです?」
逢河雷魚:「あー、他にも犬が1匹いるから……犬2匹に猫1匹だな」
逢河雷魚:「うちのマンション、ペット可だからな」シェイクを啜る。
皆方アイリ:「めちゃくちゃ飼ってるじゃないですか……。そっちの子は写真あります?」
逢河雷魚:「いや、無いな……普段そんなに撮らないからな、写真なんて」
逢河雷魚:「そっちは黒くて小さい」
皆方アイリ:「えぇ~……。こんなにかわいいのにもったいない……」
皆方アイリ:「今度撮って送ってもらえません?そっちの子も見てみたいです」
逢河雷魚:「……別にいいけどよ……」ペットを褒められて若干嬉しそうにしている。
皆方アイリ:「言質取りましたからね。今日帰ったら早速お願いします」
皆方アイリ:「にしても、ホントかわいいですね。何て名前なんです?」
皆方アイリ:片手で持った先輩のスマホをしげしげと眺めつつ、もう片手でポテトを摘まむ。
逢河雷魚:「こっちの犬がしらたまで、猫がきなこ」スマホを指差しつつ
逢河雷魚:「で、もう一匹の犬がおはぎ」
皆方アイリ:「……」
皆方アイリ:「……なんと言うか」
皆方アイリ:「先輩そういうとこありますよね」
逢河雷魚:「ああ……!?」眉根を寄せる。「何だよ……!?」
皆方アイリ:「いやぁ、あざといというかなんというか」
皆方アイリ:「いえ、良いですね。かわいい名前だと思います」
逢河雷魚:「あざと……!?」
逢河雷魚:「…………!?」
逢河雷魚:自分とおよそ縁遠いような評価に混乱する。
逢河雷魚:「……。……つーか、そんなに食い付くと思ってなかったわ」気を取り直すように
皆方アイリ:「? なんでです?」
逢河雷魚:「いや、そんなに好きなら自分では飼わないのか?ペット」
皆方アイリ:「あー……」
皆方アイリ:一回視線が泳いで。
皆方アイリ:「まあほら、チルドレンですし。なんかあったときに後のこと責任取れませんし」
皆方アイリ:「ちょっと自分では勇気出ませんねえ」
逢河雷魚:「まあ、それを言うなら俺も同じだけどな……」
皆方アイリ:「いやでも、良いことだと思いますよ」
逢河雷魚:「良いこと?」
皆方アイリ:「なんかそういう、帰るための理由が多いのってやっぱ任務とか戦闘でもプラスになるんじゃないです?」
皆方アイリ:「あたしたちの体質的にも」
逢河雷魚:「何とも言えねー話だよな……」
逢河雷魚:「ペットに限らず、UGN職員は家族を持つべきか否かって話になるだろ、要は」
皆方アイリ:「まー、その辺はどこまで行っても当事者たちの自己責任ってなりますし」
皆方アイリ:「やっぱ持ちたい人は持つ、そうでない人は持たないに落ち着くんでしょうね」
逢河雷魚:「まあ……。……そうだよな」
逢河雷魚:「……恋人だってそうだ」
逢河雷魚:少し俯くように言う。
皆方アイリ:「……まあ、そうですね」
皆方アイリ:こっちもやや目を逸らす。
逢河雷魚:「……」
逢河雷魚:少しの沈黙の後、静かに口を開く。
逢河雷魚:「でも、俺は……」
逢河雷魚:「こうしたいから、こうしてる」
逢河雷魚:常と変わらない低い声。ともすれば周囲の喧騒に掻き消されてしまいそうな声量。
逢河雷魚:「任務の為とか……誰かの為じゃない。多分、皆方の為ですらない」
逢河雷魚:「俺がこうしたいから、こうしてる」
逢河雷魚:「……そこは勘違いすんなよな」
皆方アイリ:「……なら良かったです」
皆方アイリ:「先輩ってばお人好しですからね。すぐ人のために動くんだから」
皆方アイリ:「その辺くらいは自分のしたいこと優先しといてください」
皆方アイリ:「……あたしもまあ、したいようにしてるので」
皆方アイリ:最後はぽつりと落とすように呟いて。誤魔化すようにもぐもぐとバーガーをほお張る。
逢河雷魚:「……ん……」
逢河雷魚:口に出したか出さないかも曖昧な返事をして、そのまま無言でハンバーガーを口に運んだ。



【Scene3】

GM:次の目的地、水族館へと向かう道すがら。
GM:午前から立ち込めていた雲は黒く、大きく広がって、空を覆うように不穏に広がっていた。
逢河雷魚:「……」空を見上げて。「……ヤバそうだな、天気」
皆方アイリ:「ですねぇ。予報じゃ大丈夫って話だったんですが」
逢河雷魚:「傘持ってるか?皆方」
皆方アイリ:「折り畳みは一応」
逢河雷魚:「忘れたんだよな、俺……。予報じゃ大丈夫って言ってたろ」
皆方アイリ:「曇る程度って話でしたね。ううん、あたしの折り畳みで二人行けるかどうか」
逢河雷魚:「持ってくれるといいんだけどな、もう少し……」
GM:そんな期待を裏切るように、ぽつりと雫が落ちたと思うと、すぐにぽつぽつと雨が降り出し、アスファルトを濡らしていく。
GM:夏の近付きを感じる季節といえど、5月の雨はまだ冷たい。
逢河雷魚:「ヤバい、降ってきたな……」
皆方アイリ:「来ちゃいましたね、っと」
皆方アイリ:カバンからから折り畳みを取り出して開く。
皆方アイリ:「しょーじき二人はキツめのサイズですが、無いよりはマシでしょうし」
皆方アイリ:「先輩お願いできます?」
皆方アイリ:皆方が持つと先輩が入るのがキツい身長差がある。
逢河雷魚:「ああ、悪い。助かるわ」
逢河雷魚:傘を受け取り、差す。
逢河雷魚:無いよりはかなりマシだが、仮に逢河一人だったとしてもギリギリの大きさだ。
逢河雷魚:二人で距離を保つ関係上、半身近くは傘から出てそのまま濡れている。
逢河雷魚:「……そっち大丈夫か?」
皆方アイリ:普段通りの距離で居てはまともに差してるとは言い難い。
皆方アイリ:「ん、んー」 先輩の方を見上げて。
皆方アイリ:その肩がはみ出ているのを確認して。
皆方アイリ:「……ちょっと寄りますか」
皆方アイリ:普段空けている一歩分の距離を少しだけ詰める。
逢河雷魚:「……あ、ああ……」
皆方アイリ:歩きにくいほどではなく、でも腕がたまに触れ合うくらいの距離。
皆方アイリ:それでも折り畳みの傘では二人がすっぽり収まるとはいかないけれど。
皆方アイリ:「じゃ、急ぎましょっか」
逢河雷魚:「ん……。……だな……」
逢河雷魚:付き合い始めて以来保たれていたその距離が確実であればこそ、そのたった一歩の縮まりを意識してしまう。
逢河雷魚:こういう関係になる前は、いつももっと近い距離で居た筈なのだが。
逢河雷魚:(……いや、逆だろ、普通……)
逢河雷魚:動揺を隠しつつ、いつにも増して歩幅と歩調を気にしながら歩き出す。
皆方アイリ:こつこつとその隣をヒールが叩く。こちらも普段より少し歩幅を広げている。
皆方アイリ:と言っても、先輩と歩く時はいつもだからこれはこれで普段通りだけど。
GM:そうしている内に、雨は更に強まり、強い風も吹き始める。
GM:雨が強く吹き付けて、小さな折り畳み傘では殆ど用を成さない状態になってくる。
皆方アイリ:「……先輩、これちょっと」
逢河雷魚:「……いや、駄目だな、これ……」
逢河雷魚:「どこか雨宿りするか」
皆方アイリ:「ですね。いっぺんどっか避難しましょ」
逢河雷魚:近くを見渡して、二人で小さなバス停に逃げ込む。
逢河雷魚:屋根と時刻表の他には、小さなベンチが設置されているだけの簡素な作り。他に利用者もいない。
皆方アイリ:ハンカチを取り出してカバンについた水滴を軽く拭う。
逢河雷魚:「……はー……」軒下で息を吐く。
皆方アイリ:「先輩大丈夫です?体おっきいし、結構濡れてません?」
逢河雷魚:「ここまで来たら、お互いそんなに変わらないだろ」
逢河雷魚:傘からはみ出した肩口が特にぐっしょりと濡れている。ハンカチと小さなタオルを取り出して、水滴を滴らせる黒髪を拭う。
逢河雷魚:「お前こそ小さいんだから、濡れて風邪引くなよ」
皆方アイリ:その肩を見上げるこちらの逆の肩もそれなりにしっかり濡れている。
皆方アイリ:「まあその辺はしっかり管理してるんでだいじょぶですって」
皆方アイリ:「少なくとも?先輩より食生活は絶対まともですし~?」
逢河雷魚:「ぐっ……」
逢河雷魚:「必要栄養素は摂ってるっての……」
皆方アイリ:ちゃんと先輩も拭くものを持っていたのを確認してから、自分も髪を拭っていく。
皆方アイリ:「必須のもの摂ってればそれでいいって訳じゃないでしょー。今日だってなんですか、あのシェイクの群れ」
皆方アイリ:「甘いもの好きなのは分かりますけど、あの糖分量はちょっと心配になりますよ」
逢河雷魚:「別にいいだろ、摂った分は消費してるし……」不服げな、叱られた子供のような顔。
逢河雷魚:「太って見えるか?俺」
皆方アイリ:「いえ、しっかり鍛えてるしそこは大丈夫だと思いますけど……」
皆方アイリ:「でもそういう食生活って運動しなくなってから一気に太るって聞きますよ?」
逢河雷魚:「……」
逢河雷魚:「……ずっと運動してればいいんだろ……?別に……」
皆方アイリ:「でも今ちょっと揺らいだでしょう」
逢河雷魚:「……」
逢河雷魚:「お前こそもっと……」食べた方がいいのではと反撃しようとして、別にそんなに食べていないわけでもないと気付いてしまう。
逢河雷魚:「……」
皆方アイリ:「ふふーん。あたしは結構気遣ってますからね~」
皆方アイリ:反論が途中で止まったのを見透かして、ここぞとばかりに胸を張る。
皆方アイリ:「この点で先輩に叱られるようなことは無いと自負しておりますとも」
逢河雷魚:「チッ……!」
逢河雷魚:シャツの裾を引っ張って、水滴を絞る。
逢河雷魚:「……止まないな……」
逢河雷魚:黒く陰った雨雲を見上げる。
皆方アイリ:(話逸らしたな) そう思いつつひとまずここは乗ることにして。
皆方アイリ:「ですねぇ。あたしの折り畳みじゃあこの雨の中歩くのは無謀ですし」
皆方アイリ:「ちょっとでも小降りになったタイミング狙いましょうか。多分ここで立ちんぼより水族館まで行っちゃう方が良いでしょ」
逢河雷魚:「そうだな……しばらく待つか……」時刻表を眺める。次のバスはだいぶ先だ。
逢河雷魚:ベンチに腰を下ろして、息を吐く。
逢河雷魚:「……座ったらどうだ?」
皆方アイリ:「ん、そうします。人が少ないバス停でラッキーでしたね」
皆方アイリ:そう言って隣に座る。いつも通りの、一歩分の距離を置いて。
逢河雷魚:その距離に一瞬目をやって、それから降りしきる雨の景色を見る。
逢河雷魚:「……」
逢河雷魚:口にすべきか迷うような間があって。
逢河雷魚:「……何かな」
逢河雷魚:「今……思ったんだけどな」
皆方アイリ:「はい?」
逢河雷魚:「……」眉間に皺を寄せる。怒りや不快でなく、照れ隠しの表情だと、付き合いの長い相手にだけ分かる顔。
逢河雷魚:「前は、お前……」
逢河雷魚:「ていうか、俺……達……」
逢河雷魚:落ち着かない様子で、膝の上で掌を開いては握り。
逢河雷魚:「……もっと……アレだ」
逢河雷魚:「何つーか……」
逢河雷魚:「……」
逢河雷魚:「……近くなかったか?」
皆方アイリ:「……あー」
皆方アイリ:前なら出合い頭に抱き着いて見せたり、ことある毎に手を引いたりと、スキンシップくらいお手の物だったのに。
皆方アイリ:付き合って以降は、極端にそういう触れ合いが減っている。
皆方アイリ:もちろん自覚もある。距離を取っているのはこちらの方だから。
皆方アイリ:「そうかもですねぇ」
皆方アイリ:あの先輩が直接聞いてきたということは、それくらい露骨だったんだろう。大人しく認める。
逢河雷魚:「……そうかも、って……」
逢河雷魚:「……いや、何つーか……」
逢河雷魚:「んん……」
逢河雷魚:掌で目元あたりを覆うようにして。
逢河雷魚:「……逆じゃね……?」
逢河雷魚:「普通……何つーか……」
逢河雷魚:「そういうのって……」
皆方アイリ:「いやぁ、人によるでしょう。人との距離の取り方なんて」
皆方アイリ:心なしか隣の先輩から目を逸らしつつ。
逢河雷魚:「……いや……そりゃ……」
逢河雷魚:「……そうだけどよ…………」
逢河雷魚:直球の正論に何も言い返せなくなる。
皆方アイリ:「それとも、アレですか。寂しくなっちゃったりしました?」
逢河雷魚:「ああ!?誰が……」
逢河雷魚:反射的に言い返そうとして、
逢河雷魚:「……」不意に口を噤む。
逢河雷魚:顔を背けて。
逢河雷魚:「……どうすんだよ、そう言ったら」
皆方アイリ:「……」 間があって。
皆方アイリ:「あー……。もうしばらく、寂しい気持ちを我慢してもらっちゃうことになるかも、ですね」
皆方アイリ:「前くらいの距離まで戻るにはちょっと、かかるかも」
逢河雷魚:「……」
逢河雷魚:横目でその顔を見る。
皆方アイリ:それとなくそっぽを向いているが、よく見れば耳が少し赤い。
逢河雷魚:「……」殆ど分かってはいるが、「……何でだよ?」そう訊ねる。
皆方アイリ:「……言わせます?」
逢河雷魚:「…………」
逢河雷魚:「……じゃあ、それ」
逢河雷魚:「……いいんだな?」
逢河雷魚:「俺から、そっちに行くのは」
皆方アイリ:「……」 一瞬先輩の方を見て。
皆方アイリ:「……まあ、はい」
皆方アイリ:「別にイヤって訳じゃないですし。先輩のしたいこと優先で良いんじゃないですか」
皆方アイリ:「あたしもしたいようにしますから」
逢河雷魚:「……。……ずるいだろ、その言い方」
逢河雷魚:ベンチに腰掛けたまま深く俯いて、呆れ混じりに嘆息する。
皆方アイリ:「ダメですか?」
逢河雷魚:「……それもだっての……」
逢河雷魚:いつしか弱まりつつある雨を見て、立ち上がる。
逢河雷魚:傘を広げて、皆方さんに差して。
逢河雷魚:「……行くか」
皆方アイリ:「……ん」
皆方アイリ:一つだけ息をついて。
皆方アイリ:「大分収まってきましたしね。行きましょっか」
皆方アイリ:そう言って傘の範囲、先輩の隣に収まる。
皆方アイリ:距離はいつもより近く、先ほどよりは少しだけ遠い。大体半歩程度の間。



【Scene4】

GM:先の連休を避けた層が集まった故か、水族館は混雑していた。
GM:更に先程の雨もあって、屋外展示やショーに分散するはずの客が屋内に詰め込まれる形となり、殆ど満員に近い状態となっている。
逢河雷魚:「すごいな、人……」
逢河雷魚:人込みから頭一つは抜けるような長身だが、それで却って身動きが取りづらい。
皆方アイリ:「ですねぇ。雨降ってる分ショーとか屋外はまだ使えないでしょうし」
皆方アイリ:「これは今日丸一日ぎゅうぎゅう詰めかも」
皆方アイリ:逆にやや背が低い方だ。一応流されないよう傍はキープしているものの、人込みには紛れやすいだろう。
逢河雷魚:「まあ、後の予定も無いし……ゆっくり回るか」
逢河雷魚:イルカショー中止の告知に目をやって、心なしか落胆している。
皆方アイリ:「そうしましょうか。フツーに順路巡ってくだけで楽しいでしょうし」
皆方アイリ:「まあそもそもこの人込みじゃあ逆走するのも一苦労でしょうけど」
逢河雷魚:「だな……」小魚の群れが泳ぎ回る大水槽を眺めて「水族館なんて、久々に来たな……」
皆方アイリ:「あたしもです。普段あんまり来ようってなりませんもんね」
皆方アイリ:「実際来てみると綺麗なんですけど……」 言いながら水槽の中の魚たちを見上げる。
逢河雷魚:「一人で来てもな……」一緒に来るような友人もいない。
皆方アイリ:「……」 若干暖かい眼を先輩に向ける。
逢河雷魚:「おい……やめろその目……!」
皆方アイリ:「いえ……。良かったですね、一緒に来る相手が出来て……」
逢河雷魚:「自分で言うかそれ……?」
皆方アイリ:「だって……『一人で来てもな』は多少は来たいと思ってる人から出る言葉じゃないですか」
逢河雷魚:「あー、はいはい。感謝してますよ」
逢河雷魚:「……実際、この前の遊園地もそうだしな……」
逢河雷魚:「一人じゃわざわざ遠出しようって気にも……」
逢河雷魚:水槽を悠然と泳ぐジンベイザメに目をやって。
逢河雷魚:「……?」
逢河雷魚:いやに静かなのに気付いて振り向く。
逢河雷魚:「皆方?」
逢河雷魚:そこに彼女の姿は無い。ただ見知らぬ賑やかな人混みがあるだけだ。
逢河雷魚:「……っ……」
逢河雷魚:すぐに状況を理解して。
逢河雷魚:「皆方!」その名を呼ぶ声を上げた。

---

皆方アイリ:一瞬水槽のジンベイザメに目を取られて、そしたら隣に子供が割り込んできて。
皆方アイリ:あっとそちらに目をやると先輩は既に進んでいった後っぽく。サメにはしゃぐ男の子が居るだけだった。
皆方アイリ:見上げて探そうにも、この身長だと人ごみに遮られて一つ高いはずの頭も見当たらず。
皆方アイリ:一つ溜息をつきながらスマホを取り出す。
皆方アイリ:『すみません、ちょっと逸れました』
皆方アイリ:『コーナー終わりの辺りで止まっててもらえると助かります』
皆方アイリ:向こうも気づいてはいるだろうし、端的に文章を送ってもう一つ溜息。
皆方アイリ:水槽を見上げれば群れで連れたって泳ぐ魚達が目に入って。
皆方アイリ:「……あーあ」
皆方アイリ:魚相手に羨ましいなーとか、そんな。
皆方アイリ:馬鹿みたいだなぁと思いつつ、少しだけ歩くペースを上げた。

---

逢河雷魚:「……皆方……」
逢河雷魚:辺りを見回しても、ごった返す人込みに紛れ、姿は見えない。
逢河雷魚:ほんの数秒でも、目を離すべきではなかった。自分の浅慮と油断を呪う。
逢河雷魚:ただはぐれただけだと分かってはいても、焦燥が込み上げてくる。
逢河雷魚:思い出すのは数か月前、彼女が姿を消した時のこと。
逢河雷魚:あの時とは違うと分かってはいても、どうしても嫌な感覚が拭えない。
逢河雷魚:「……落ち着け。落ち着け……」
逢河雷魚:嫌な汗が滲んでくる。馬鹿らしいと頭では思うのだが──。
逢河雷魚:「み……」
逢河雷魚:もう一度名前を呼ぼうとした時、スマートフォンが振動した。

---

逢河雷魚:「……皆方!」
皆方アイリ:「あ、先輩」
逢河雷魚:大水槽の端、コーナーの終わり際に、人混みを掻き分けるように早足で向かってくる。
皆方アイリ:「良かった良かった。やっぱ先に場所決めといた方が話が早いですね」
皆方アイリ:いつもと変わらない調子でヘラヘラと寄ってくる。
逢河雷魚:「……」
逢河雷魚:その顔を見て、深々と安堵の息を吐く。
逢河雷魚:「マジではぐれたと思ったぞ……」
逢河雷魚:「……悪い、一瞬目離した」
皆方アイリ:「いえいえ、あたしがちょっと気を取られてたせいなんでお気になさらず」
逢河雷魚:呼吸を整え、焦りを隠すようにもう一度深く息を吐いて。
逢河雷魚:「……皆方」
皆方アイリ:「はい?」
逢河雷魚:「……ん」
逢河雷魚:片手を差し出す。
皆方アイリ:「……あー」
皆方アイリ:一瞬だけ迷ってから手を伸ばし。
皆方アイリ:手ではなく袖を摘まむ。
逢河雷魚:「……」
逢河雷魚:何とも言えない顔。
皆方アイリ:「よし、それじゃあ行きますか」
皆方アイリ:何とも言えない顔をわざとスルーして。
逢河雷魚:「……」
逢河雷魚:「それじゃあ行きますか……」
逢河雷魚:「じゃないだろ」
逢河雷魚:呆れたように嘆息する。
皆方アイリ:「……」 目を逸らしたまま、だけど流石に何がです?とは聞き返せず。
逢河雷魚:「……お前な……」
逢河雷魚:「……」
逢河雷魚:一度瞑目してから、意を決して。
逢河雷魚:手をするりと動かして、袖を摘まむ手を、その上から握る。
皆方アイリ:「……あー」
皆方アイリ:無言のまま、手が裏返って先輩の手を握り返す。
逢河雷魚:「……」
逢河雷魚:一度は捕まえるように掴んだ手を緩めて、改めて繋ぐ形で握り直す。
皆方アイリ:「えぇと、じゃあ」
皆方アイリ:「これで逸れませんし、行きますか」
逢河雷魚:「……。……そう、だな」
逢河雷魚:ぎこちなく頷く。
逢河雷魚:以前にも手を繋いだことはあるはずだが、その時よりもずっと、小さなその掌や、自分とは違う体温、その感触を意識してしまって、そちらを見ることが出来ない。
皆方アイリ:自分より随分大きな手。しっかりと力が込められた感覚は、以前なら感じなかったもので。
皆方アイリ:(……あー、もう)
皆方アイリ:火照る頬も緩む口角も見られないように、わざと一歩前をいた。



【Scene5】

GM:水族館を出て、最寄り駅に着いた頃には、既に陽は暮れかけていた。
GM:もうすぐ帰宅ラッシュが始まる時刻。駅前を行き交う人々も徐々に増え始める頃だ。
GM:アスファルトに落ちる影が長く伸びる。二人はここで解散することになっていた。
逢河雷魚:「……じゃあ……この辺り、だな」
皆方アイリ:「ですね」
皆方アイリ:とは言うものの、自分から手を離そうとはしない。
逢河雷魚:「……あー……」
逢河雷魚:こちらもまだ手は離さずに。
逢河雷魚:「お疲れだったな」
逢河雷魚:「……アレだ」
逢河雷魚:未だ気恥ずかしさが抜けないのか、訥々と。
逢河雷魚:「……楽しかったわ」
皆方アイリ:「ん、なら何よりです」
皆方アイリ:「あたしも楽しかったですし。次は動物園でも行きましょっか」
皆方アイリ:「アレも普段機会ないと行かないじゃないですか」
逢河雷魚:「そうか……動物園?」
逢河雷魚:「まあ、そう……そうだな」
逢河雷魚:頷いて。
逢河雷魚:「……行くか」
皆方アイリ:「……えぇと」
皆方アイリ:「行くならほら、離してもらわないと」
皆方アイリ:そう言ってこれ見よがしにつないだ手を揺らす。
逢河雷魚:「あ……そう、だな……」
逢河雷魚:一瞬手を緩めようとして、
逢河雷魚:「……」
逢河雷魚:再び握る。
逢河雷魚:「あー……」
逢河雷魚:「ちょっと待て」
皆方アイリ:「どうしました?」
逢河雷魚:「……」
逢河雷魚:少し黙り込む。沈黙の合間に、駅前の喧騒と青信号のチャイムが聞こえる。
逢河雷魚:「……タイミング……逃してたんだけどな」
皆方アイリ:「はい」
逢河雷魚:「多分……あー…… ……今言わないと……駄目だと思ってな」
逢河雷魚:後輩に目をやる。逸らそうとするのを堪えるようにして。
逢河雷魚:「……それ……」
逢河雷魚:「今日……」
逢河雷魚:「……。……」
逢河雷魚:「似合…………」
逢河雷魚:「…………」
逢河雷魚:「……可愛い、わ」
逢河雷魚:言葉を詰まらせながら、何とか吐き出すように言う。
皆方アイリ:「……ふふっ」
皆方アイリ:「逃しすぎでしょ。何時間越しですか」
皆方アイリ:思わずというようにくすくすと笑みを零す。
逢河雷魚:「うっ……!……せーな……!まだセーフだろ……!ギリ……!」
皆方アイリ:「まあセーフですけども。滑り込みですね」
逢河雷魚:「ぐ……」
逢河雷魚:後ろめたそうな表情。
皆方アイリ:「まあ、とても嬉しかったので。時間に関しては不問としましょう」
皆方アイリ:「次は出合い頭に聞けたらもっと嬉しいですねぇ」
逢河雷魚:「……努力する……」
逢河雷魚:やや目を逸らす。
皆方アイリ:「ふふ」
皆方アイリ:努力は沢山してもらってる。手を繋いでもらったのも、さっきの言葉がかわいいだったのも。
皆方アイリ:だから別に、無理にまで頑張らなくて良いですよとも言いたくなるけど。
皆方アイリ:(嬉しいからいいかなんて思うんだから、あたしも悪くなったもので)
皆方アイリ:(……先輩にはずっと悪いことばっかしてる気もするけど)
皆方アイリ:そういう諸々は全部内心に秘めたまま、いつものように笑う。
皆方アイリ:「頑張ってくださいねー。あたしもオシャレ頑張りますから」
逢河雷魚:「ああ……」
逢河雷魚:動揺を隠すように曖昧に頷いて、繋いだままの手に視線を落とす。
逢河雷魚:「……家……」
逢河雷魚:「……どっちだったっけか」
逢河雷魚:「……送ってくわ、やっぱ」
皆方アイリ:「……んん、それじゃあ」
皆方アイリ:「お言葉に甘えちゃいましょう。こっちですよ」
皆方アイリ:繋いだままの手を引いて、自分の使う路線の方へと歩いていく。
逢河雷魚:「……ああ」
逢河雷魚:手を繋いだまま歩いていく。或いはそれは、少しでもそうしていたいが為の言い訳だったかもしれないが。
逢河雷魚:少なくとも今しばらくは、その掌を離さずに済む。







GM:全行程終了。
GM:お疲れさまでした!
皆方アイリ:お疲れさまでしたー
逢河雷魚:お疲れさまでした……